- オンラインのピアノレッスンに必要な機材と環境
- オンラインピアノレッスンのやり方とポイント
- 現役講師が実践するオンラインならではの指導スキル
急激に普及しつつある教育のオンライン化は、学校教育だけでなく、塾、家庭教師はもちろんのこと、「ピアノ教室」にまで及んでいます。ピアノレッスンは他の教育業とは異なり、座学だけでなく実技も含まれるため、「オンラインは不可能」だと思われてきました。
しかし、社会情勢の変化で「オンラインにせざるを得ない」状況になると、その様相は一変。多くのサービスが「オンラインピアノレッスン」を実施しており、「自分もやってみたい」と考える方は少なくないはずです。
一方で、オンラインピアノレッスンはまだまだ普及段階ということもあり、レッスンの方法や必要機材が確立されていないのも確か。この記事では、現役講師監修のもと、オンラインピアノレッスンに必要な機材や環境、さらにはレッスンの方法や注意点を解説していきます。
オンラインのピアノレッスンに必要な機材と環境
IT技術の進歩や社会情勢の変化により、教育のオンライン化は急激に進んでいます。しかし、まだまだ成熟したジャンルではないため、オンライン教育の方法論は確立されておらず、それはピアノレッスンでも同様です。
したがって、「そもそも、オンラインピアノレッスンには何が必要なの?」というところから疑問に感じている方も多いでしょう。
はじめに、オンラインのピアノレッスンに必要な機材と環境について解説していきます。楽譜や楽器など、オンライン関係なく必要なものについては割愛した上で、「必須機材」「あったら役立つ機材」の2つに分けて話を進めていきます。
必須機材
はじめに、ピアノレッスンをオンラインで行う上で絶対に必要な「必須機材」から確認していきましょう。
カメラ付きデバイス
ピアノレッスンをオンラインで提供する上で、なくてはならないものが「カメラ付きデバイス」です。ピアノレッスンと数学や英語などの科目レッスンとの大きな違いは、「映すべき場所」にあります。
科目レッスンでは、カメラを用いた実写映像がなくても、iPadなどの画面を共有し、その画面上に教材を載せたり、直接書き込むことで最低限のレッスンが提供できます。もちろん、実写映像があればよりレッスンの質は高まりますが。
一方で、ピアノレッスンの大半は画面共有では不可能です。ピアノレッスンでは、先生、生徒の双方が、
- 鍵盤
- ペダル
- 姿勢
弾いている時のこれらの映像を、リアルタイムで撮影する必要があります。したがって、映像を撮影し、送受信できるカメラ付きのデバイスが必要です。
最適なのは「タブレット」
しかし、カメラ付きデバイスといわれても、スマートフォンやタブレット、パソコンなど色々なものがあるので、どれを選べば良いのか迷ってしまう方も多いでしょう。
結論からいえば、オンラインのピアノレッスンに最適な端末は「タブレット」です。
タブレットの画面サイズは7インチ〜13インチ程度とスマートフォンより見やすく、パソコンのような感覚で使えます。一方で、パソコンのようにキーボードが付いておらず、スマートフォンのように手に持って使える特徴を兼ね備えています。
つまり、タブレットは「スマートフォンとパソコンの良いとこどり」をした端末です。したがって、
- 先生は生徒の、生徒は先生の「弾いている姿」が確認しやすい
- 鍵盤やペダルが見えるように持ち運び可能で「小回り」が利きやすい
タブレットが持つこれらの点がオンラインのピアノレッスンに最適だといえます。
ビデオ通話アプリ
オンラインレッスンを行うためには、ビデオ通話アプリの使用が必要不可欠です。代表的なアプリ、サービスとしては、
- ZOOM
- Skype
- LINEビデオ通話
こちらの3つですが、多くのオンラインレッスンを提供するサービスは、ZOOMかSkypeを使用します。
現役講師の視点でいえば、ビデオ通話アプリは好みの世界です。「ZOOMは毎回部屋を立てて入室してもらうのが手間がかかる」と考える方がいれば、「Skypeは安定性がなくて嫌だ」と考える方もいます。
また、お客さまによっては「LINEのビデオ通話が一番使いやすい」と、普段利用しているアプリに親近感を持っている方もいます。
サービスを提供する企業にとっては、プライベート色の強いLINEを先生に利用してもらうのは難しいので、ZOOMかSkypeのどちらか好みの方を使えばOKです。
インターネット環境
カメラ付きデバイスに続いて、インターネット環境もオンラインレッスンを行う上で必須の環境です。ピアノレッスンは画面共有ではなく、実写の映像を使ってレッスンを進めるので、画面共有メインの科目レッスンよりも要求されるインターネット回線の品質が高いです。
参考までに、ビデオ通話アプリSkypeにおける、各操作に必要なインターネットの速度を以下の表にまとめてみました。
通話の種類 | 最低速度(Mbps) | 推奨速度(Mbps) |
---|---|---|
通話 | 0.03Mbps | 0.1Mbps |
ビデオ通話 | 0.128Mbps | 0.3Mbps |
画面共有 | 0.128Mbps | 0.3Mbps |
高画質ビデオ通話 | 0.4Mbps | 0.5Mbps |
HDビデオ通話 | 1.2Mbps | 1.5Mbps |
グループビデオ通話(3人) | 0.512Mbps | 2Mbps |
グループビデオ通話(5人) | 2Mbps | 4Mbps |
グループビデオ通話(7人以上) | 4Mbps | 8Mbps |
参考:Skype で必要となる帯域幅を教えてください。 – Microsoft
ご覧のように、画面共有の場合、理想とされるインターネット回線の速度は「0.3Mbps」ですが、高画質ビデオ通話は「0.5Mbps」、より画質が高いHDビデオ通話になると「1.5Mbps」の速度が要求されます。
これらの速度は、光回線はもちろん、モバイルWi-Fiでも十分出せる速度です。一方で、これらのインターネット回線を用意できない場合でも、スマートフォンを用いたテザリング機能で代替可能なので、オンラインレッスンのために新たに回線を契約する前に、まずはテザリングで試してみても良いでしょう。
現役のオンライン家庭教師が「テザリングでオンラインレッスンを提供できるかどうか」を検証した、以下の記事も参考にしてください。
https://www.oshieru.work/lecture-tethering/
あったら役に立つ機材
続いて、「あったら役に立つ機材」について解説していきます。レッスンの質や利便性を高める上で必要なものなので、レッスンの参考にしてください。
デバイスを固定するもの
あったら役に立つものの中でも、最も優先度が高いのが「デバイスを固定するもの」です。上記写真にあるように、タブレットやスマートフォンを空中で固定するための三脚やアームなどの器具があると、鍵盤などの撮影がしやすくなり、レッスンを自分が思っているように進められます。
考え方によっては「必須機材」ともいえるので、質の高いピアノレッスンを受けたい、提供したい方は、購入を検討しましょう。レッスンだけでなく、さまざまな用途で活躍する便利アイテムなので、購入して損はしません。
音響機材
音楽と音響機材は切っても切れない関係にあるものなので、より質の高いレッスンを求めるなら、音響機材にこだわる必要があります。
オンラインピアノレッスンはさまざまなメリットがありますが、インターネット回線や端末を介して音を聞くことになるので、「正確な音が聞こえているのか」という点をストレスに感じてしまいやすいです。
現役講師の視点でいえば、特別な音響機材がなくても十分な質のレッスンは提供できるので、「全ての方に必要不可欠」という機材ではありません。
しかし、「より質の高い指導を行いたい」と考える先生や、コンクールで良い結果を目指すお客さまにとっては、些細な音のズレが大きなズレへとつながります。このようなことを防ぐためにも音響機材の重要性は人によっては高いです。
イヤフォン・ヘッドフォン
音響機材の中でも、「音を聴く」ためのイヤフォンやヘッドフォンはあると非常に便利です。
特にBluetooth接続のものがあると、タブレットなどをどこに置いても快適に、クリアに音が聴こえます。一方で、Bluetoothなど無線接続はトラブルが起こりやすいため、安定性を選ぶなら有線接続のものがおすすめです。
また、オンラインレッスンは自宅で行う方がほとんどですが、生活音や環境音など、レッスンをしてみると意外と「雑音」が気になり、レッスンに集中できない可能性があります。これは「ノイズキャンセリング」という、外部音をシャットアウトする機能で防げるので、より集中してレッスンに取り組みたいなら注目したい機能です。
マイク
続いて、「音を聴かせる」ために必要なマイクについてですが、最近のタブレットはマイクの質も決して低くはないので、「なくても問題ない」と考えてください。
また、イヤフォンやヘッドフォン自体にマイク機能がついているものもあるので、購入する必要がある方は少ないです。
オンラインのピアノレッスンのやり方とポイント
オンラインのピアノレッスンに必要な機材や環境を解説しましたが、ここからはピアノレッスンのやり方やポイント、注意点について解説していきます。
ピアノレッスンを提供する先生、ピアノレッスンを受けるお客さま、双方にとって役に立つ内容を解説しているので、要チェックです。
ピアノレッスンは「カメラの位置」で決まる
ピアノレッスンをオンラインで提供していて強く感じることが「隣にいてあげられなくてもどかしい」ということです。
隣にいれば、「ここはこうやるんだよ」とお手本を披露することで10秒で終わることが、オンラインレッスンを始めたばかりの時には5分、10分と時間をかけてしまっていました。隣にいない分、口頭で説明することが多くなり、分かりにくい指導となるからです。
このようなことを防ぐためには、「カメラの使い方」が非常に大切。多くの方はピアノレッスンは音が大切だと考えますが、実際にピアノレッスンをやってみると、音ではなく「視覚」が大切だと気づきます。つまり、カメラの位置でピアノレッスンの質は大きく変わるのです。
では、具体的にどのような位置にカメラを置けば良いのでしょうか?
基本の位置は「真横」
ピアノレッスンにおける基本のカメラ位置は「真横」です。ピアノの実技を指導する上で最重要なのは「音」ですが、それ以外の「目に見える部分」で重要なのは、「指の動かし方」「姿勢」の2つ。
姿勢用と運指(指の動かし方)用のカメラをそれぞれ用意できれば理想的ですが、1つのカメラを運用するのが現実的でしょう。したがって、姿勢と運指を共に確認できる「真横」にカメラを置くのがピアノレッスンの基本だと考えます。
こちらが「真横」のイメージ画像ですが、姿勢と運指の両方が確認しやすいアングルであることが伝わると思います。
鍵盤に集中するなら「真上」
真横からの撮影により、姿勢と運指の両方を確認できますが、「指の動きを集中して観察したい」という時もあります。その場合は、鍵盤の「真上」にタブレットなどを置いて、鍵盤だけを見れるように工夫をしてもらいます。
こうすることで、運指を完璧に把握できますし、指使いなどで改善すべき点が容易に指摘可能です。もちろん、「お手本」を見せてあげたい場合は、先生側のカメラを鍵盤上に設定することで、生徒に分かりやすいように指導します。
「真上」のイメージ画像はこちら。指使いがリアルタイムで確認できるので、より細かい指導をしたい時に向いているアングルです。
「具体的にどんなレッスンをやっているのか」については、現役講師が自らのレッスンの体験談についてお話ししている、以下の記事も参考にしてください。
足りないところは「工夫」で補う
以上のように、適切にカメラを使うことでレッスンの質を大きく高めることができますが、それでもやはり、「足りないところ」が出てきてしまうのがオンラインレッスンです。
オンラインのピアノレッスンの質を高めるためには、この「足りないところ」を埋めるために、どれだけ工夫ができるかにかかっています。
隣にいないからこそ「パフォーマー」になりきる
オンラインのピアノレッスンで明確に「足りない」と感じるのは、相手の動きを数インチの画面上でしか捉えられない分、臨場感に欠けてしまうことです。目の前で指導を行ったり、お手本を披露すると、細かいところまで目で見て確認できますが、オンラインだとそうはいきません。
したがって、オンラインのピアノレッスンでは、多少オーバーになったとしても、声や動作を大きくし、できるだけ伝わりやすくしてあげることが大切です。つまり、「パフォーマー」になる意識がないと、生徒にとって分かりにくいレッスンになってしまいます。
逆に「生徒目線」に立つと、「分かりにくい」と感じることは隣にいて指導される時よりも確実に増えるので、分かりにくいところはハッキリと「分かりません」と伝えましょう。先生は自分の指導方法が「分かりにくい」とは考えていないので、しっかりと伝えることで、レッスンの内容を改善するきっかけとなり、どんどんと分かりやすいレッスンとなるはずです。
リズムの取り方、指の形は「モノ」を使って
ピアノレッスンだけではありませんが、オンラインレッスンは隣にいない分、どうしても「口頭」で説明しようとしてしまう傾向があります。確かに、科目レッスンの場合は口頭で伝えられることが多いですが、実技が伴うピアノレッスンでは、口頭での指導には限界があります。
例えば「リズム」に関連する指導では、感覚的な部分が伴うため、口頭だけで伝えようとすると非常に分かりにくいです。そこで、分かりやすいように「モノ」を使って一工夫します。ハンドタオルを持ってきてもらい、「先生と同じリズムで机を叩いてみよう」とすると、頭だけでなく、
- 机を叩く音
- 腕を上下する触覚
このように、聴覚や触覚といった「感覚」でリズムを掴めます。
また、ピアノの指導で欠かせないのが「指の形」です。映像でお手本を見せてあげても指の細かい角度まではなかなか伝わらないので、小さなボールなど「握れるもの」を持ってきてもらい、適切な指の形に自然となるような指導を行います。
どちらも、特段難しいことをしているわけではありませんが、ただ口頭で説明するのと、モノを使って実践するのとでは、分かりやすさは段違いです。
このような「分かりやすさ」を追求する姿勢を常に持つことは、オンラインピアノ講師に欠かせない資質の1つです。
多種多様なレッスン内容もオンラインならでは
一般的なピアノ教室を利用するお客さまは、単に「ピアノを上手くなりたい」と考えている方がほとんどです。
しかし、オンラインレッスン、特にこのWebサイトを運営しているオンライン家庭教師サービス「まなぶてらす」のオンラインピアノレッスンでは、本当にさまざまな要望をお客さまからされます。
コンクール対策から定期テスト対策まで何でもあり
「まなぶてらす」のレッスンは、一般的なピアノ教室とは異なり「単発」での利用も可能なので、「『〇〇』が苦手だからちょっとだけレッスンを受けたい」といった、従来のピアノ教室にはない利用が可能です。
したがって、ピアノ教室にあるようなコンクール対策はもちろんのこと、
- ピアノ教室の補習
- 部活動(吹奏楽部)の練習
- 学校活動(合唱コンクールのピアノ担当など)の練習
このように、多種多様な要望をお客さまからされます。「姿勢を中心に見て欲しい」「音を正確に聞き取れる耳を鍛えたい」といった、非常に細かい部分に特化したご要望もありますし、吹奏楽部の練習では、ピアノ以外の楽器に関する質問も飛んできます。
また、レッスン前日、場合によってはレッスン数時間前に「今日のレッスンで教えてください!」という言葉と楽譜の写真がセットで送られてくることも日常茶飯事です。
先生目線に立つと、出来るだけ早いうちから楽譜の情報は知っておきたいのが本音ではあるものの、このような「利便性の高さ」も、「まなぶてらす」のような都度予約制のオンラインレッスンの長所です。
幅広く対応できる「アドリブ力」を磨こう
したがって、オンラインのピアノレッスンは「アドリブ力」が要求されます。ピアノ教室のような型にはめられた指導では到底太刀打ちできないので、シチュエーションごとに適切な指導を行う総合的な音楽力、指導力が必要です。
これだけ聞くと、「オンラインピアノレッスンって大変そう」と考えてしまう方もいるでしょう。確かに、慣れるまで大変に感じてしまうのは事実です。
しかし、レッスンの数をこなしていくと、自分の指導者、音楽家としての引き出しがグーンと増えますし、音楽に悩む方々の力になることは大きなやりがいへとつながります。また、在宅の環境でピアノを使ってお金を稼げることは、自分のライフプランを柔軟にしてくれるため、より多くの方にオンラインのピアノレッスンをやってみて欲しいと考えています。
オンラインピアノレッスンで理想の授業を追求しよう
オンラインのピアノレッスンは、「難しそう」と思われがちですが、実際にやってみると、必要機材や環境はそこまで多くなく、画面越しのレッスンでも教えられることは対面している時とほとんど変わりません。
一方で、指導できる内容に変化はなくても、指導方法には大きな違いがあります。オンライン特有の指導方法や工夫を実践して、質の高いオンラインピアノレッスンを追求しましょう。