- インターネット回線の評価方法
- 光回線、モバイル回線、テザリングとオンライン授業の相性
- テザリングでオンライン授業は可能
社会の変化で急速に進んだリモート化は、ビジネスだけでなく教育界にまで及んでいます。大学を筆頭に、教室で行われる講義をZOOMで行う「リモート講義」や、対面で行われる塾や家庭教師の授業をオンラインで行う「オンラインレッスン」など、教育を取り巻く環境は急激にオンラインへとシフトしつつあるのです。
そして、リモート講義やオンライン授業を受ける、提供する上で必要なのが「インターネット回線」です。光回線やモバイル回線など、さまざまなインターネット回線が存在しますが、「テザリング」を用いてオンライン授業が可能なのかどうか、気になっている方も多いでしょう。
そこでこの記事では、現役のオンライン家庭教師が、「テザリングの回線品質」「テザリングを用いた授業の実施」というテーマを徹底的に解説していきます。オンライン授業を受ける側、提供する側、どちらの方にも役に立つ記事となっているので、最後まで読んでいただければ幸いです。
オンライン授業はインターネット回線が必須
テザリングはスマートフォンやタブレットのインターネット回線を使用して、パソコンやタブレット、ゲーム機などの機器をインターネットに接続できるようにする、非常に便利な通信方法です。
家庭の状況や住居の都合により、光回線などの固定回線やモバイルWi-Fiなどのモバイル回線を用意できない場合に、スマートフォン1つで手持ちの機器をオンラインにできるため、日常的に使用している方も多いでしょう。
だからこそ、「テザリングでオンライン授業を行えるのかどうか」を知りたくなるのは、当然のことだといえます。結論からいえば、テザリングを使って「オンライン授業を受ける」「オンライン授業を提供する」ことは可能です。
その理由を知るために、まずはインターネット回線の基本的な知識から身につけていきましょう。
インターネット回線の品質評価方法
インターネット回線は目に見えないからこそ、回線品質の評価が難しいです。「テザリングでオンライン授業はできるのか」という疑問は、インターネット回線を評価する基準を知っていれば、正確に理解できるようになります。
また、今後生活のさまざまな場面でオンライン化、リモート化が進んでいくので、そういった意味でもインターネット回線の品質を評価する方法を知っておくことは極めて重要なこと。
そして、代表的なインターネット回線の評価方法として、「速度測定Webサイト」を使用する方法があります。ここでは、auのテザリング回線を用いてUSENが提供するインターネット速度測定サイトを使用した結果を解説していきます。
速度:bps
出典:USEN
まずはインターネット回線の速度ですが、上記画像の中で「赤枠」で囲んであるものが該当します。単位は「Mbps」ですが、「〇〇Mbps」「〇〇Gbps」という単位をインターネット回線関連の広告などでよく使われます。これらの単位は「1秒あたりに扱える情報の量」を表しており、一般的に使用される単位は以下の3つです。
- Kbps(キロビーピーエス)
- Mbps(メガビーピーエス)
- Gbps(ギガビーピーエス)
これらの単位は、下に行けば行くほど「0が3つ増える」、つまり1,000Kbpsが1Mbps、1,000Mbpsが1Gbps、と推移します。
そして、上記画像の赤枠の中には、以下の2つの速度が表示されています。
- ダウンロード:51.18Mbps
- アップロード:1.16Mbps
このうち、ダウンロードは端末へのデータの受信を、アップロードは端末からのデータの送信を、それぞれ示すものなので、この2つの数字が、使用しているインターネット回線の大まかな回線速度だと考えてください。
YouTubeやSNSのデータ受信など、日常生活では「ダウンロード」の方が圧倒的に使用機会が多いため、テザリングの速度もダウンロードが圧倒的に速くされています。しかし、オンライン授業ではアップロード速度も重要です。
オンライン授業に必要な速度
では、オンライン授業に必要な速度は、一体どの程度なのでしょうか?ここでは、オンライン授業でZOOMと並んで使用される、Skypeのビデオ通話の必要速度を以下にまとめてみました。
通話の種類 | 最低速度(Mbps) | 推奨速度(Mbps) |
---|---|---|
通話 | 0.03Mbps | 0.1Mbps |
ビデオ通話 | 0.128Mbps | 0.3Mbps |
画面共有 | 0.128Mbps | 0.3Mbps |
高画質ビデオ通話 | 0.4Mbps | 0.5Mbps |
HDビデオ通話 | 1.2Mbps | 1.5Mbps |
グループビデオ通話(3人) | 0.512Mbps | 2Mbps |
グループビデオ通話(5人) | 2Mbps | 4Mbps |
グループビデオ通話(7人以上) | 4Mbps | 8Mbps |
参考:Skype で必要となる帯域幅を教えてください。 – Microsoft
こちらのデータはSkypeを提供するMicrosoftの公式ヘルプを参考に編集したものですが、先生・講師と学生が「1対1」の場合、最高画質のHD画質で快適な授業を行うためには「1.5Mbps」の速度が必要であることが分かります。
また、先生・講師と学生が「1対複数」の場合は「8Mbps」の速度が必要なので、おおよその目安として「10Mbpsあればビデオ通話によるオンライン授業ができる」と考えましょう。
一方で、画面共有メインの授業では、グループビデオ通話に必要な10Mbpsを大きく下回る速度でも問題ありません。多くのオンライン授業は画面共有がメインなので、1Mbps〜5Mbps程度あれば画面共有を用いたグループ授業を快適に行えるはずです。
そして、先ほどのau回線でのテザリングの速度は、
- ダウンロード:51.18Mbps
- アップロード:1.16Mbps
だったので、画面共有はもちろんのこと、高画質でのビデオ通話も可能です。アップロード速度が低いことが気になるものの、「画面共有を用いたオンライン授業は快適に行える」といえます。
応答性:ping
インターネット回線の速度に続いて、応答性を表す「PING(ピン)」という基準についても解説していきます。
先ほどの「速度:bps」は、単にインターネット回線そのものの速度を表していましたが、こちらのPINGは「インターネットに接続するまでの速度」を表しており、PINGが優れていればいるほど、高い応答性を持ったレスポンスの良い状態と評価できます。
速度とPINGの関係が少し曖昧ですが、以下のように考えるとスッキリするはずです。
- ping:インターネット通信を始めるまでの速度
- 速度(bps):インターネット通信の1秒あたりの速度
参考:Ping値(ピン値/ピング値)とは何のこと?回線速度との違い – @nifty IT小ネタ帳
つまり、どれだけ高速に通信できる回線だとしても、そもそもインターネット通信を始めるまでの時間がかかってしまっては意味がないということ。だからこそ、速度(bps)と同じく、PINGもまた重要な指標です。
そして、このPINGの単位はms(ミリセカンド)で、「低ければ低いほど応答性が良い」と評価します。おおよそのPINGの評価基準を以下で確認しましょう。
PING | 評価 |
---|---|
〜40ms | 高品質 |
〜60ms | 標準 |
〜100ms | 低品質 |
ご覧のように、PINGは60msを基準として、これより低いと高品質と、高いと低品質と評価されます。
そして、先ほどのauのテザリング回線の速度測定結果では、PINGは「40.21ms」だったので、高品質ではないものの、標準的な範囲に収まっていると評価可能です。この程度のPINGならば、問題なくオンライン授業を行えます。
スペック上はテザリングでオンライン授業を行える
まずはテザリングの速度測定結果を用いて、インターネット回線の評価方法を解説してきましたが、速度、PINGともに、オンライン授業を行う上での最低限の水準はクリアしていることが分かります。
したがって、あくまで数値だけで考えると、「テザリングでオンライン授業を行える」といえるでしょう。
数字だけでインターネット回線は評価できない
しかし、今回紹介した速度とPINGは、あくまでインターネット回線を部分的に評価する指標に過ぎず、以下のような要因に回線品質は大きな影響を受けるのです。
- 地域
- 住居
- 使用端末
特にテザリングは無線で大手キャリアの基地局と通信を行うため、基地局との物理的距離や遮蔽物の有無、住居の壁の厚みなど、考慮すべきことが多いです。
したがって、「実際にやってみないと分からない」部分が多いので、現役オンライン講師がテザリングを使ってオンライン授業を行ってみました。次の章でその模様を紹介していきます。
- 速度(bps)と応答性(PING)でインターネット回線は評価できる。
- テザリングの速度、応答性で、オンライン授業は行える。
- テザリングは住んでいる地域や住居、使用端末の影響を受ける。
テザリングを使って現役オンライン講師が授業を行ってみた
ここからは、現役のオンライン家庭教師が、テザリングを使ってオンラインレッスンを行った模様を紹介、解説していきます。
なお、オンラインレッスンは「1対1」で50分間、Skypeのビデオ通話で、最初の数分のみビデオ通話で、残りは画面共有をして行いました。
今回の検証では、お客さまにご迷惑をおかけしないために、事前にSkypeによるビデオ通話ができるかどうかを確かめています。レッスン品質を十分保った上での検証となっているため、この点ご理解ください。
テザリングや使用環境の詳細
まずは今回使用したテザリングや環境など、事前に伝えておくべきことをまとめてみました。
使用キャリア
今回使用したテザリングは、筆者がスマートフォンを契約しているauのものです。SkypeやZOOMのビデオ通話は多量のデータ通信を必要とするため、月に数GBのプランだとすぐに上限に到達してしまいます。
それを見越して、契約プランは2021年に登場した大容量(20GB/月)でコスパの良い「povo」へ変更し、さらに追加オプションの「データ使い放題」を利用しました。
これは、220円を支払うことで「24時間データ使い放題」となる有料オプションで、povo専用のアプリからいつでも即時利用ができます。
こちらが実際のアプリ画面ですが、非常に使い勝手が良く、30秒もあれば申請が完了します。申請後即時利用できるので、テザリングを使ったオンライン作業をする上では欠かせない存在になりました。
使用端末
使用キャリアの次は、使用端末をご紹介します。それがこちらです。
- テザリング:iPhone11
- オンラインレッスン:MacBook Air
テザリングに使用したのは、povoと契約してある「iPhone11」です。テザリングは電波を飛ばすスマートフォンのスペックによっても回線の安定性が変わるので、出来るだけ最新の端末の方が良いでしょう。
そしてオンラインのレッスンで使用したのは、MacBook Airになります。2020年に出たM1チップを搭載したモデルで、メモリは8GBと標準的。
また、テザリングの使用方法(接続方法)には、以下の3つの方法が存在します。
- Wi-Fi
- USB
- Bluetooth
このうち、今回は「USB」での接続で検証を行いました。
感想・反省
上記環境でオンラインレッスンを行った感想、反省を紹介していきます。
テザリングでも快適に授業ができる
まず結論からですが、テザリングでも快適にオンラインレッスンを行えました。普段使用している回線が光回線なので、テザリングとの回線スペックの差を考えると、快適に行えない可能性も考慮していましたが、杞憂に終わって何よりです。
今回使用したテザリングの回線スペックを、もう一度確認しましょう。
指標 | 数値 |
---|---|
ダウンロード | 51.18Mbps |
アップロード | 1.16Mbps |
PING | 40.21ms |
それぞれの指標の数値は上記表の通りですが、どの指標でもSkypeで画面共有を行う上では問題がないスペックです。
そして、本番のレッスンでは、おおよそ「スペック通り」の結果に落ち着きました。詳細は以下の通りです。
画質
多くの方が気になるのが画質だと思いますが、普段、固定回線の光回線でレッスンを行うときと比べて、お客さまのビデオ映像が粗いように感じました。
しかし、「表情が読み取れない」などの問題が生じるほどではなかったので、講師側から見る画質は特に問題ありませんでした。
一方で、生徒さまから見たこちらの画質は、「普段と変わらない」とのことです。先述の通り、オンラインレッスンは画面共有が基本なので、要求される回線スペックはそこまで高くありません。
1対1なら0.3Mbps、多人数でも数Mbpsあれば問題ないので、画質面に関してはテザリングでも問題ないと結論できます。
音質
音質は普段と全く違いが感じられず、クリアによく聞き取れます。生徒さま、保護者さまからも何もいわれなかったので、講師側、生徒側ともに問題がないという結論です。
遅延
続いて遅延ですが、こちらもいつも通りの感覚で問題ありませんでした。生徒さまからも指摘を受けなかったので、遅延なく快適なレッスンができました。
スマートフォンの充電に気を配る
テザリングを使ったオンラインレッスンが問題なく行えましたが、一点気になったのが「スマートフォンの充電」です。テザリングは極めて多量のエネルギーを消費するため、フル充電でオンライン授業に臨んだとしても、普段では考えられないスピードで充電がなくなっていきます。
したがって、長時間のオンライン授業をテザリングで行う場合、スマートフォンを充電しながら行う必要があります。
しかし、テザリング使用中のスマートフォンはただでさえ発熱しているので、さらに熱を与える充電を行いながら長時間使用すると、バッテリーの劣化が急速に進んでしまう可能性があります。
ゆえに、毎日テザリングを長時間使うならば、固定回線やモバイル回線などの代替回線を用意した方が良いと感じました。
月間データ容量を超過しないよう気をつける
テザリングを使用する方の多くは、固定回線(光回線)やモバイル回線を契約するのがもったいない、もしくは面倒だと感じて、テザリングでオンライン授業を行おうと考えているはずです。
そして、オンライン授業を受ける、提供する、どちらの立場だとしても、少なくとも週に数回、多い場合は週に5回以上、授業があるでしょう。これほどの回数のオンライン授業をテザリングで行うと、当然気になるのが月間のデータ容量です。
オンライン授業はデータ消費量が大きいビデオ通話がメインになるため、月に数GBの契約では、あっという間に容量上限に達してしまいます。
20GBで本当に足りる?
したがって、テザリングでオンライン授業を行おうとすると、各キャリアの用意する大容量プランを契約することになるでしょう。今回紹介したauのpovoをはじめとする、docomoのahamo、そしてSoftBankのLINEMOのような、いわゆる「格安大容量プラン」なら、1カ月あたり3,000円前後の比較的低料金で大容量プランを契約できます。
一見すると、これは安いように感じられますが、各キャリアの大容量プランの上限は1カ月に20GBです。果たして月に20GBでオンライン授業の全てをテザリングで行えるのでしょうか?
SkypeやZOOMではなくLINEの場合ですが、1GBで「3.25時間」のビデオ通話を行えるとLINE MOBILEが公式にアンサーしています。使用アプリの違いはあれど、そこまで大きく変わらないことが予想されるので、SkypeやZOOMでも1GBで3時間程度のビデオ通話が行えると考えて良いでしょう。
参考:LINE通話のデータ通信量 – LINE MOBILE
つまり、20GB全てをテザリングに使用すると、合計60時間前後のビデオ通話ができることになりますが、これを多いと捉えるか、少ないと捉えるかは人それぞれ。
毎日数時間のオンライン講義がある大学生にとっては「少ない」ですが、週に数回しかレッスンを行う機会がない先生、講師、生徒にとっては、「十分」です。
テザリング以外の回線も視野に
20GBで「少ない」場合、テザリングを使ってさらなる大容量プランを契約しようとすると、各キャリアが用意する、いわゆる「無制限プラン」を利用することになります。
しかし、無制限プランは各キャリアともに7,000円程度の月額料金がかかり、なおかつ「テザリングは無制限の対象外」としているキャリアも存在します。
*2021年6月4日現在はdocomoのみがテザリングも無制限で使用可能
7,000円を超える月額料金がかかり、なおかつテザリングが無制限で使用できないなら、光回線やモバイル回線などの別のインターネット回線の契約を検討した方が良いかもしれません。
光回線は月額4,000円〜6,000円程度でテザリングとは比較にならないほど高い回線品質で、本当の意味で使い放題です。しかし、開通にあたって工事が必要ですし、大学生の一人暮らし用の物件だと、開通できない可能性もあります。
一方で、モバイル回線はテザリングと同品質の回線を、月額3,000円〜5,000円程度で大容量、使い放題プランを契約でき、工事も一切不要です。
なお、両者ともに2年〜3年の契約が基本となっており、途中解約は数千円〜2万円程度の契約解除金(違約金)がかかりますが、客キャリアの7,000円を超える大容量プランを使うなら、違約金のリスクを踏まえても光回線、モバイル回線を使用した方が安上がりになるはずです。
テザリングでオンライン授業はできる!ただし使いすぎには注意を
テザリングは手持ちのスマートフォンでインターネット回線が構築できる、使い勝手の良さが魅力です。
最近増えつつあるオンライン授業も、1対1のSkypeレッスンなら問題なく行えることが分かりました。画面共有をメインとする授業なら快適に行える可能性が高いため、別の回線を持たない方はテザリングを使って授業を受けてみましょう。
一方で、テザリングだけでオンライン授業の全てを行おうとすると、スマートフォンの月額料金が高くなってしまう可能性があります。テザリング以外にも光回線やモバイル回線といった選択肢が存在するので、視野を広く持って自分のライフスタイルに合ったインターネット回線を選びましょう。