塾講師として働いていると、想像以上に「教えることの難しさ」を痛感するものです。自分では理解しているつもりなのに、いざ生徒を目の前にすると、
- どうやって解けば良いのだろう
- 生徒が分かりにくそうにしている
- 他の教え方はないだろうか
このようなことを考え慌ててしまうものですが、このような経験をすると「自分が塾で先生をやっていて良いのだろうか」と疑念を抱いてしまうのは自然なこと。
そこでこの記事では、上手く教えられないことで悩む塾講師の方へ向けて、「教えるコツ」を現役講師が徹底的に解説していきます。
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今日からできる「上手く教えるコツ」8選
まず大切な結論からですが、教える能力は「経験」に大きく依存します。授業を通してそれぞれの科目のそれぞれの単元を、それぞれの生徒に教えていく過程で「こんな風に教えれば分かりやすいな」と直感を通して理解していくのが自然な流れであるため、焦る必要はありません。
しかし、同時に「知っておくべき教えるコツ」があるのも事実。ここでは、以下の8つの点について深掘りしていきます。
- 自信を持つ
- 「想像力」を働かせる
- 本質を理解する
- 具体例や言い換えを用いる
- 生徒のことを深く理解する
- 授業ごとに目標を決める
- 生徒の様子をつぶさに観察する
- 話し方を工夫する
どれも塾講師には欠かせないものなので、順番にチェックしていきましょう。
自信を持つ
「教えるコツ」と聞くと、多くの方は細かいテクニックを期待するものですが、何よりも大切なのは「自信」です。
自信があれば、自分の教える内容が生徒のためになることを確信した状態で教えられるため、授業全体から感じ取れる「説得力」が違います。
また、生徒目線に立つと、自信なさげに弱々しく授業をする先生よりも、自信を持ってハキハキと、整然と教えてくれる先生の話を素直に聞き入れたくなるもの。
したがって、どんなテクニックやコツよりも、まずは「自信を持って授業に臨む」姿勢を大切にしましょう。
指導力と学力は比例しない
一方で、塾講師として働いている先生の中には、このような点が気になって自信を持てない場合もあるでしょう。
- 頭が良くない
- 在籍している大学のレベルが高くない
- 他の先生のように上手く教えられない
大丈夫、安心してください。実は、指導力と学力は比例せず、むしろ反比例する可能性すらあるため、これらのことを「長所」として捉えることが大切です。
なぜなら、頭が良くない、つまり「勉強が苦手」な人間は、塾講師のお客さまである「勉強が苦手な生徒」の気持ちが手に取るように分かるからです。しかし、頭の良い人たちには、「なぜ勉強ができないのか」が分かりません。
この違いは指導者として極めて大きいものであり、なおかつ「身につけられない」ものです。なにせ、頭の良い人に「頭の悪い人になれ」と言ってもなれませんから。
したがって、どれだけ頭が良くなくても、大学のレベルが高くなくても、それは教えることと何も関係がないので、気にする必要はありません。むしろ、「自分は頭が良くないからこそ、生徒の気持ちがよく分かる」と開き直り、自信を持って授業に臨みましょう。
「想像力」を働かせる
「自信」の部分と少し関連するところがありますが、分かりやすく教える上で「想像力」は絶対に欠かせません。
生徒は私たちと同じようにひとりひとり違った人間なので、全く同じ単元だとしても、生徒によって分からないポイントは大きく異なります。
したがって、「どこが、どのように、どれくらい分からないのか」を汲み取ってあげられる「想像力」を働かせて、ピンポイントな指導を心がけましょう。
想像力を駆使して「噛み砕き方」を微調整しよう
想像力を特に働かせて欲しいのが、「噛み砕いて教える」ことです。分かりやすい指導で必ず話題に上がるこの「噛み砕く」ことですが、多くの指導者は既に自分なりに噛み砕いて授業をしているはずです。
しかし、最も大切なのは噛み砕くことではなく「噛み砕き方」です。「どんなふうに噛み砕けば良いのか」を意識せず、ただ自分の思うように噛み砕いたものを伝えていては、生徒によっては上手く飲み込めないこともあるでしょう。
これを防ぐためにも、「生徒の気持ちを想像した上で噛み砕く」ことを強く意識してください。これが自然とできるようになれば、どんな生徒からも「分かりやすい」と評価される人気講師へとステップアップできるでしょう。
本質を理解する
このように、分かりやすい授業を展開するには「噛み砕いて解説すること」が極めて重要ですが、本質を理解していなければ噛み砕いて教えることはできません。
例えば、中学校2年生の理科で勉強する「光合成」で考えてみましょう。多くの講師は、光合成を「二酸化炭素と水から光エネルギーを使ってデンプンと酸素を作ること」と教えます。
確かに、これは反応全体を見れば間違ってはいませんが、「分かりやすい教え方」とは言えません。
そもそも、デンプンとは「炭素と水素がたくさんくっついたもの(炭水化物)」であり、酸素の数はあまり多くありません。したがって、以下のように教えられれば、より分かりやすい教え方になります。
「光合成では、二酸化炭素と水を葉緑体という工場で合体させてデンプンを作り、工場を動かすエネルギーとして光エネルギーを使う。そして、余った酸素はゴミとして外に排出する」
このような教え方なら、単に反応の登場人物を機械的に覚えさせるのではなく、「デンプンを作るための反応」という光合成の目的を理解させられます。また、光合成の直後に学ぶ呼吸の部分で、光合成で作ったデンプンを使ってエネルギーを取り出すので、そこにつなげるという意味でもこのような本質の理解は大きいです。
この理科の例はあくまで一例ですが、このような本質に迫る指導を、いかに満遍なく、さまざまな科目で行えるのかが、塾講師としての腕の見せ所です。
「予習」を入念に行おう
では、本質を捉えた授業を行うには、どんなことに注意すれば良いのでしょうか?答えは非常にシンプルで「科目への理解を深めること」です。
例えば、先ほどの光合成の例は、光合成の本質を理解しているかしていないかで、教え方は変わってくるはずです。学生時代に「二酸化炭素を吸って、酸素を吐く」とだけ覚えた先生なら、「気体の出入り」に注目して指導を行うと思いますが、これは光合成の本質からかけ離れています。
一方で、光合成の本質が「生きるために必要なエネルギーをデンプンとして獲得する」と知っているなら、
- どんな反応なのか
- なぜ必要なのか
- 呼吸との関連性
このような本質に迫る部分まで指導できるため、結果的に分かりやすさは格段に上昇します。しかし、これを理解するには、高校生レベルの生物や化学の知識が求められるため、やはり予習は欠かせません。
逆に言えば、本質に迫る指導とは、単に「知っているかどうか」に過ぎないため、予習を入念に行い「知る」ことが何よりも大切です。
具体例や言い換えを用いる
分かりやすい教え方には、「具体例」「言い換え」が必要不可欠です。
難しいことを教える場合、ただそれを頭に入れるのと、具体的な例を出して教えるのとでは、雲泥の差が生まれます。
例えば、先ほどの「本質を理解する」で出した「光合成」の話も、具体例や言い換えの一例です。単に「本質を理解することが大切」と言われるよりも、実際の例を持ち出し、根拠や理由を示した上で「だから本質を理解することが大切」と言われた方が、より頭に入ってきやすくなります。
「引き出しの数」と「指導力」は比例する
具体例や言い換えをどれだけ授業の中で応用できるかは、いわゆる「会話の引き出し」のようなものです。
会話は相手があってこそ成立するものなので、画一的に「これを教える時にはこれを例として出せば良い」としていてはいけません。
- 生徒の学力
- 生徒の性格
- 生徒の興味関心
このようなものを総合的に考慮した上で、教える生徒にとって最も分かりやすい具体例、言い換えをすることで、分かりやすさは格段に上がります。
特に意識したいのが「生徒の興味関心」です。具体例や言い換えをする時に、生徒の好きなものや興味を持っているものを出してあげると、食いつきが大きく違ってきます。
生徒のことを深く理解する
「生徒の興味関心」という話が出てきましたが、指導をする時に、「生徒のことをどれだけ理解できているか」で、授業の分かりやすさに大きく差が生まれます。
一方で、分かりにくい授業にありがちなのが「自己満足」です。生徒が知りたいことではなく、「自分が教えたいこと」に集中してしまい、最も優先されるべき生徒が置き去りになってしまいがち。
人間は「誰かに何かを教える」ことに強い優越感、幸福感を抱く生き物なので、仕方のない側面もありますが、このようなことをできるだけ防ぐためにも「生徒への理解」を深めましょう。
表情1つから読み取れる講師になろう
生徒への理解のために重要なのは「対話」「表情」の2つです。対話については言うまでもなく、直接的に生徒のことを知れる極めて貴重な情報源です。積極的に生徒とコミュニケーションを取って、生徒の学力だけでなく、興味関心など、さまざまなことを話してもらいましょう。
授業中の雑談が苦手な先生は、以下の記事も参考にしてみましょう。
https://www.oshieru.work/tutor-chat//
一方で、このような対話が全ての生徒に対して出来れば良いですが、以下の要因で上手くコミュニケーションを取れないケースもあるはずです。
- 授業中に雑談ができない
- 性別が異なるため、踏み込んだところまで話ができない(特に男性の先生)
- 生徒が心を開いてくれない
どのような要因があるにせよ、無理に生徒とコミュニケーションを取る必要はありません。場合によってはクレームの原因になるため、「表情から読み取る」ことを意識しましょう。
授業をしながら表情を読み取ることは難しいかもしれませんが、ポイントは「視野を広く持つ」ことです。先述のように、授業は自己満足では意味がなく、相手、つまり生徒のために行うもの。
したがって、どんな時も生徒のことを視野に入れておかなければいけません。この視野には物理的な視野だけでなく、精神的、心理的な視野も含まれます。常に生徒ファーストに立っていれば、自然と表情も視野に入ってくるはずです。
授業ごとに目標を決める
生徒の成績アップには、長期的な目標を立てることが必要不可欠です。その場しのぎだけで授業を進めていては、いずれ大きな壁にぶつかるため、一貫した戦略を立てた上で授業を進めていかなければいけません。
しかし、同時に「短期的な目標」が必要な場合もあります。
実現可能な目標でモチベーションアップ!
勉強が苦手が子や、授業に対して消極的な子の多くは、これまで勉強における成功体験に乏しく、挫折ばかりを繰り返しているケースがほとんどです。そういった子に対して、数カ月後や1年後の目標を掲示しても何ら実感が湧かないため、目標が目標として成立しません。
それだったら、授業ごとに容易に実現可能な目標を細かく立てる、言わば「スモールステップ」的な目標を立てると効果的です。
- 分数や小数を含む方程式を解けるようになる
- 漢字を10個覚える
- 現在進行形を使って1つ英文を作れるようになる
特に、このような「具体性のあるスモールステップな目標」を授業ごとに立てると、生徒目線で分かりやすいと言えるでしょう。これを書いた付箋を机に貼っておき授業を進めるなどすると、目標が「見える化」されて、さらなるモチベーションアップにつながります。
話し方を工夫する
突き詰めていくと、教育業の本質は「人と人とのコミュニケーション」に辿り着くため、話し方や伝え方一つで、分かりやすさや授業の楽しさは変わってきます。
そして、教えるのが苦手な先生の多くは、この話し方や伝え方に改善すべき点があることがほとんどです。
威圧感を出す話し方は絶対にNG
指導者が絶対にやってはいけないのが「威圧感を出す話し方」です。
教えるという行為には、必然的に「2つの立場」が生まれます。それは、教える側の指導者と教わる側の生徒ですが、この2つの立場に「上下関係」が生まれるのは避けられません。言うまでもありませんが、指導者が上で、生徒が下です。
したがって、ただでさえ立場的に「下」にある状態の生徒に対して、威圧感を抱かせる話し方をしてしまっては、生徒の気持ちは萎縮し勉強どころではなくなってしまいます。
メリハリのあるコミュニケーションを
では、どのような話し方をすれば、生徒にとって理想的なコミュニケーションになるのでしょう?キーワードは「メリハリ」で、授業中に以下の2つの顔を使い分けられるようになると、伝え方は大きく改善されます。
- 頼りになる先生
- フランクに話せる年上のお兄さん、お姉さん
多くの先生は、この2つの顔のうち、どちらか1つの顔しか持っていません。「頼りになる先生」の顔しか持っていないと、先述の威圧感を感じさせることになります。
一方で、「フランクに話せる年上のお兄さん、お姉さん」という顔しか持っていないと、それはそれでナメられます。必要な時に生徒が言うことを聞いてくれなくなりますし、叱りにくい雰囲気にもなるため、これはこれで良くありません。
したがって、授業中にこの2つの顔を「自由に行き来」できるような柔軟性を持てるようになると、両者の良いとこどりができるようになります。「何でも話せる頼りになる先生」になれれば、どんな生徒からも好かれる理想の先生になれること間違いなし!
上手く教えられない原因は「塾」にあるかも
以上の8つのコツをしっかり押さえるなど、先生側が努力をして分かりやすい授業ができるように成長することは非常に大切ですが、そもそも「上手く教えられない原因」が塾にある可能性があります。
ここからは、あまり語られない「塾の教えにくさ」にフォーカスして、話を進めていきましょう。
そもそも塾が「教えにくい」理由
筆者は現在、このWebサイトを運営している「まなぶてらす」というオンライン家庭教師サービスで現役の講師として働いていますが、過去に大手学習塾で講師をやっていたこともあります。
その経験を踏まえると、「塾は教えにくい」と言い切れます。その理由は以下で簡潔にまとめていきます。
完全マンツーマンではない
塾が最も教えにくい理由として「完全マンツーマンではない」点があげられます。筆者が過去に働いていた学習塾は、「個別指導」と謳っているサービスでしたが、その実態は1対2から1対3の「準個別指導」で、マンツーマンで行う「完全個別指導」の家庭教師とは教えやすさが大きく異なります。
最も大きな違いは「生徒の細かな変化を読み取れるかどうか」です。多くの生徒は、分からないところがあっても質問をしてくれませんが、必ず表情に表れます。
授業の全ての時間を目の前の生徒に使える家庭教師の場合、これをつぶさに読み取ることができますが、準個別指導の塾講師にそれをするだけの時間的、精神的余裕はありません。
教材、テキストに縛りがある
これは塾によりますが、多くの塾では授業で使用する教材やテキストに縛りがあるため、これも教えにくさに拍車をかけています。
いわゆる「塾用教材」がこれに該当しますが、塾用教材は学力が低い生徒から高い生徒まで幅広く対応できる「汎用性の高さ」を重視しています。レベル別に教材を作成するとコストがかかりますし、販促がしにくいからです。
したがって、生徒に寄り添った教材だとは到底言えない教材も少なくありません。質の高い塾用教材やレベル別の塾用教材ももちろんありますが、やはり「ひとりひとりの生徒に合った教材を使う」のがベストです。
家庭教師なら思い通りの授業がしやすい
このように、塾には「教えにくい」側面があるため、もし塾で何らかの「やりにくさ」を感じているなら、家庭教師として教育業に携わるのも選択肢の1つです。
家庭教師はマンツーマンの完全個別指導なので、持ち時間の全てを目の前の生徒ひとりに使えます。教育の醍醐味を存分に感じられる働き方なので、多くの塾で働く先生におすすめできます。
まなぶてらすの授業は「縛りなし」
中でも、このWebサイトを運営している「まなぶてらす」というオンライン家庭教師サービスは、「教えやすさ」という点では業界内でも「No.1」だと自負を持っています。
- 使用教材、テキスト
- 指導方法
- 事務局への授業報告
このような先生への縛りを一切設けていない「縛りなし」なので、自分の理想とする授業を自由に追求できますし、「トコトン追求して欲しい」とさえ考えています。
以下の記事で詳細を確認できるので、気になる方は参考にしてみてください。
https://www.oshieru.work/manabuterasu-class/
経験を積めば分かりやすい指導は必ずできる
教育業に携わる人間にとって、「分かりやすい授業ができない」ことは大きな悩みになりがちです。この記事で紹介した「8つのコツ」を参考に、自分の授業や教え方をブラッシュアップしてみましょう。
一方で、自分の授業に満足できないのは、単に「経験不足」なだけかもしれません。誰でも授業を数多くこなしていくうちに、自分にしかできない分かりやすい授業ができるようになっていくもの。焦らず地道にコツコツいくこともまた、大切なことだと言えます。