- オンライン授業のカンニングの指導者と生徒の本音
- カンニングが生徒に与える悪影響
- オンライン授業と試験に効果的なカンニング対策
オンライン授業において「カンニング対策」は極めて重要です。知識の定着を確認するために質問、もしくはテストを行っても、「隣にいないから」という理由でカンニングをされてしまっては、効果的な指導を行うことはできません。
一方で、オンライン授業におけるカンニング対策が難しいのもまた事実です。生徒たちは物理的に離れた環境にいて、なおかつカンニングを咎めるものが周囲に存在しないため、「やりたい放題」になってしまっているケースもあるでしょう。
そこでこの記事では、「オンライン授業におけるカンニング」にフォーカスを当てて、現役のオンライン講師が徹底的に解説していきます。
オンライン授業のカンニング対策は難しい
毎日オンラインでレッスンを行っていると、生徒がカンニングをするのは日常茶飯事です。
英語のレッスンで「この単語の意味わかる?」と尋ねると、目線を明らかにパソコンの画面やスマートフォンに移して答えを確認していたり、知識の定着を確認する小テストで隣に置いてある答えを見ながら問題を解いていたり、その手口はさまざま。
いくらオンラインといえど、マンツーマンでレッスンをしていれば「カンニングしているな」と簡単に気がつきます。しかし、学校や大学の集団のオンライン授業などでは、カンニングに気づき、そしてそれを指摘するのは困難です。
指導者と生徒の双方の本音
このように、急激に普及しつつあるオンライン授業のデメリットの1つ「カンニング」が問題化しつつありますが、指導者と生徒は共に譲れない本音を持っています。
指導者目線では「対策不可能」
まず私たち指導者目線に立つと、カンニングは「対策不可能」だと考えてしまうのも無理はありません。
なぜなら、本来隣いるはずの生徒は画面の向こうにいて、なおかつ指導者が目視で確認できるのは映像の範囲だけです。やろうと思えばいくらだってカンニングなんてできるので、性善説に立って「カンニングはやめましょう」と正論で諭すことくらいしかできません。
しかし、カンニングは全ての生徒が行うわけではないため、カンニングをするかしないかで成績が大きく変わってくるのは決して無視できない問題です。
また、指導者であるなら「カンニングでズルをするような子に育って欲しくない」と思うのも普通のことなので、「どうにかしてカンニング対策をしたい」と考える先生、講師の方は多いと思います。
生徒目線では「カンニングしない方が難しい」
続いて生徒目線に立って考えてみると、「カンニングしない方が難しい」のがオンライン授業ではないでしょうか?
自分が子供の頃を考えてみると、やはり勉強や授業は面倒で、やりたくないものだったはずです。しっかり勉強をして良い点数が取れれば良いですが、「どうせカンニングしてもバレない」という誘惑が目の前にあったとしたら、100%、神に誓って「カンニングは絶対にしない」と言い切る自信はありません。
したがって、生徒がカンニングをしてしまうのは、生徒が悪い、それを指導しない指導者が悪い、というよりは、もはや「仕方のないこと」なのかもしれません。
カンニングは生徒に大きな悪影響を与える
このように、オンライン授業におけるカンニングは、指導者側は「打つ手なし」の状態で、生徒側は「やらない方が難しい」ような状態です。
いわば、「やらない方が損をする」という非常に良くない流れが生まれており、子供たちの間でも新たな分断の火種になる可能性があります。
加えて、カンニングをすることは生徒の人生に悪影響を及ぼすのも事実。
- 「不正行為」が習慣化してしまう
- 単位取消しで留年、最悪の場合は退学にも
- 授業の進行が大きく妨げられる
- 社会的地位に大きく傷がつくことも
ここでは、カンニングが与える悪影響として以上の点を解説していきます。
「不正行為」が習慣化してしまう
一度カンニングに手を出してしまうと、「頑張らなくても良い結果が得られる」方法へと流れていくことが習慣化してしまいます。
もちろん、「最小限の努力で最大の結果を出す」こと、つまり合理化は人生において極めて重要ですが、カンニングは合理化ではなく不正行為です。
これが一度習慣化してしまうと、子供の素直な心が悪い方向へと働いてしまい、他の部分でも「不正行為を行うハードルが低くなる」可能性も否定できません。
いわゆる「モラルハザード」を子供が起こさないように、カンニング対策をしっかり行うべきです。
単位取消しで留年、最悪の場合は退学にも
オンライン授業を強いられやすいのが、時に100人を超える生徒が1つの教室に集まって授業を受ける大学生です。
今やほとんどの大学でオンライン授業が実施されており、この流れは今後も継続される可能性もありますが、大学側もカンニング対策に完全に無策でいるわけではありません。現在進行形でカンニング対策方法が整備されつつあるため、カンニングが発覚するケースも今後増えていくでしょう。
そうなった時に、大学生に待っているのは重いペナルティです。筆者が通っていた大学は、「該当する期内の全単位取消し」が設けられていましたが、おおよそどの大学も試験における不正行為には極めて厳しく対処しています。
たとえば、国立大学の1つ「千葉大学」では、大学の「学生の懲戒に関する規定」の中で、「停学の基準」を以下のように定めています。
本学が実施する試験等において,不正行為を行った場合
つまり、試験中のカンニングは「停学」につながるということです。停学をすると必修単位を落とすこととなり、留年は避けられず、人生に大きな悪影響を与えることは明らか。
こういったことを学生に行わせないためにも、カンニング対策を万全に行うことが重要です。
授業の進行が大きく妨げられる
オンライン授業で生徒がやりがちなのが、「指導者側の死角にカンニングペーパーを置いておく」ことです。
授業中に知識の定着や解答を確認しようと、
- この問題の解き方は理解してる?
- 〇番の答はいくつになった?
- この用語の意味はわかる?
このような質問を投げかけるも、目線がキョロキョロしていたり、模範解答と全く同じことを話していたら、簡単にカンニングをしていると見破れます。
しかし、カンニングを見破ったところで「生徒に対して強く出にくい」ため、効果的な指導が難しいのも事実です。授業中にカンニングをする生徒の根幹にあるのは「間違えてはいけない」というプレッシャーなので、強く指導をすると萎縮し、授業に対するモチベーションのさらなる低下につながります。
とはいえ、カンニングで場当たり的に対処していては、成績が伸び悩むのも事実。このようなことを授業中に考えていると、授業を進めにくくなってしまい生徒の貴重な学習時間が削られてしまいます。
社会的地位に大きく傷がつくことも
また、カンニングによって社会的な地位に大きな傷がつく可能性も否定できません。
多くの方の記憶に残っているのが、2011年に起きた京都大学の二次試験における、スマートフォンを使ったカンニング事件です。当時の新聞記事を以下に引用します。
京都大の入試問題がネット掲示板に試験中に投稿された事件で、偽計業務妨害容疑で京都府警に逮捕された仙台市の男子予備校生(19)が、試験会場内で携帯電話を操作し、掲示板に直接書き込んでいたと説明していることが、捜査関係者への取材でわかった。
この報道を見てわかるように、これは単なるカンニングではなく「偽計業務妨害」という刑事事件として扱われています。京都大学の「入学試験」という業務を妨害した罪として問われ、逮捕、家宅捜索をされ、ワイドショーなどでも大々的に扱われました。
また、2022年の大学入学共通テストにおいても、非常によく似たカンニング騒動が起きています。仮面浪人をしていた受験生が「魔がさした」として、上着に隠し持っていたスマートフォンで撮影し、家庭教師紹介サービスを介して現役の大学生に解答を求めたとのことです。
こちらも2011年と同様に偽計業務妨害として捜査が行われており、記事執筆現在もネットニュース、ワイドショーで大々的に取り上げられています。魔がさした代償は極めて重大です。
カンニングがこのように事件化し、全国規模の報道に乗ることは極めて稀ですが、どんな場所であろうとも、カンニングが明るみになると信用は大きく揺らぎ、周囲から孤立してしまうリスクがあるのは事実です。
子供をこのような状態にさせないためにも、大人たちがカンニングができない環境を作ってあげることが大切ではないでしょうか?
- 指導者と生徒の本音を踏まえると、カンニングの対策は困難
- カンニングが習慣化するとモラルハザードのきっかけにも
- カンニングが人生全体に悪影響を与える可能性もある
オンライン授業に効果的なカンニング対策とは?
少し前置きが長くなりましたが、カンニングは生徒にさまざまな悪影響を与えます。そんな時、「カンニングをする生徒が悪い」と切り捨てるのは簡単ですが、成長途上にある子供の行動を決めるのは、良くも悪くも周囲の環境です。
したがって、事前に「カンニングができない環境」を整備してあげれば、カンニングという選択肢ではなく、よりフェアで建設的な行動を取ってくれる子供は増えるはずです。
ここでは、オンライン授業におけるカンニング対策を解説していきます。需要が大きく分かれそうなので、「試験のカンニング」「授業のカンニング」の2つに分けてみました。参考になる部分をチェックしてください。
試験のカンニング対策
まずは、多くの指導者が悩んでいる「オンライン授業の試験のカンニング対策」です。
教育の場では必ず「成績」をつける必要がありますが、これを評価するためには知識の定着を数値化しなければいけません。だからこそ、小中高、そして大学では試験やテスト、考査を設けていますが、あまりにも「死角」が多いオンライン授業では、試験の数値はアテにならない部分があります。
だからこそ、各学校、大学がオンライン授業の試験時にルールを設けてはいるものの、そのほとんどが性善説に基づいた形だけのもので、「やったもん勝ち」な側面があるのも事実です。
アプリやAIの導入は現実的ではない
このような「オンライン授業の盲点」を察知し、ビジネス化しようとする動きも見られます。上記画像はオンライン試験の外注サービス「スマート入試」の公式サイト画像ですが、以下のようなカンニング対策をパソコン、スマートフォンを使うことで実施しているとのこと。
【パソコン】
- 視線監視
- 入れ替わり監視
- 人物・物体監視
- 音声監視
【スマートフォン】
- PC画面監視
- PC死角人物・物体監視
- 手元物体監視
- 音声監視
一般的なパソコンについているインカメラによる監視だけでなく、スマートフォンを使ってできるだけ死角を作らないようにしているのは画期的です。
また、スマートフォンでパソコンの画面をチェックできる点や、音声による対策ができるのも従来のカンニング対策とは質的に異なります。これだけ完成度が高いため、東京大学大学院の入試で導入されるなど、既に普及しつつあるのも納得です。
しかし、全教育機関に導入するコストが莫大になる点を考慮すると、こういった外注サービス1つで解決できる簡単な問題ではないのもまた事実です。また、どれだけ対策を施しても別の場所で試験を受けている都合上、カンニングを100%防ぐのは不可能です。
したがって、アプリやAIを用いたオンライン授業のカンニング対策は「まだまだ現実的ではない」といえるでしょう。
「カンニング前提のテスト」を実施するのが効果的
以上のように、オンライン試験ではカンニング対策が難しく、大きなコストもかかります。したがって、「どうせカンニングされてしまう」と開き直り、カンニング前提のテストを実施するのも選択肢の1つです。
非常に参考になる例として、お茶の水女子大学が実施するAO入試の試験方式である「新フンボルト入試」があげられます。詳細は以下をご覧ください。
新フンボルト入試の名前は,近代大学の祖とされるベルリン大学の創設者,ヴィルヘルム・フォン・フンボルトの名前からとっています。フンボルト,また初代学長となったフィヒテは,大学における学問とは,既存の知識を教え込むのではなく,知の応用にある,としました。理系は実験室での実験を通して,文系は様々な資料のある図書館でのゼミナールを通して学問の真理が生み出されるとしています。この理念をもとに,これまで学んだ知識を駆使して自分の関心事を探究していく,さらには,社会に出てからも知を縦横に活用していけるような、ポテンシャルを持った学生を選抜したいという思いを込めて,本学発の新しい総合型選抜を新フンボルト入試と名付けました。
ご覧のように、「既存の知識ではなく、知の応用」に目を向けるのが新フンボルト入試のポイントです。
インターネットやICTが普及するまでは、それぞれの人間の知性は「どれだけ知っているか」という知の量に依存しましたが、誰もが瞬時に必要な情報にアクセスできる現代では、「既存の知識をどう使えるか」という知の質が極めて重要なのは明らか。
一方で、各教育機関では未だに「どれだけ覚えているか」で知性を測っているため、そこにメスを入れようとしたのが新フンボルト入試になります。
試験方式は「考えさせること」に重きを置いており、学内の図書館で試験を行って、「文献を自由に閲覧して良い」という前提のもと、論述問題に解答させる形式を採用しています。
これをオンライン試験に応用し、「インターネットを自由に閲覧して良い」という条件、つまり「カンニングし放題」という前提で試験を行い、「知の質」を測るような試験ならカンニングはもはや問題ではなくなります。
特に相性が良いのは「特定の答えがない科目」です。国語はもちろんのこと、理科や社会の論述問題も該当しますが、数学とは少し相性が悪いかもしれません。
とはいえ、義務教育課程の小学校や中学校では、学問の基礎的知識を扱うため「覚える」ことの重要性が高いのもまた事実です。したがって、全ての年代の試験に適用できるわけではない点に注意が必要だといえます。
「抜き打ち小テスト」で小まめに試験を実施するのもアリ
シンプルかつ効果的なのが「抜き打ち小テスト」です。
中間や期末テストなどの大きな試験になると、生徒に向けて試験を実施する日程を公開する必要があり、カンニングがしやすいように準備を進めやすいです。
したがって、予告なしにいきなり小テストを実施することで、カンニングをさせる時間を与えない点が効果を発揮します。テストの時間を短くすることで、カンニングをしていては時間が足りないようにすると、よりカンニングに対する抑止力になるでしょう。
さらに、この方法は普段からしっかり学習を進めている子と、そうでない子を見分けることができるため、「頑張っている子に良い成績をつける」という平等性も担保できます。
授業のカンニング対策
続いて、オンラインの授業中におけるカンニング対策を解説していきます。
「間違えてもいいんだよ」と伝える
オフラインの対面式の授業の場合、生徒の様子を指導者は目視で確認できるので、何か質問をした時に答えを見て答えているのかどうかが簡単に理解できます。これが抑止力となり、生徒が答えを見ずに自分の頭で考える側面もあるでしょう。
しかし、オンライン授業では生徒はこのような抑止力が効きにくいため、授業中に質問をしても、答えを見ながら回答をしてしまうことが対面式に比べ非常に多いです。
この時、「答えを見ずに」と指摘すれば大抵の生徒は自分の頭で考えてくれますが、場合によっては何度指摘しても答えを見てしまう生徒も存在し、この対応が非常に難しいです。
このような生徒は「間違えることは恥」という極端な心理を持っているため、「間違えることを許容する」姿勢を示してあげることが大切です。
- 間違えるところが分かれば成長できる
- 間違えてもいいから答えてごらん
- 間違えてくれないと先生がいる意味がないんだよ
このようなことを根気強く伝えていくと、少しずつですが生徒の心は変わってくれます。
答えを見ることが習慣化してしまうと、勉強以外の部分でも楽な方に逃げる姿勢が身に付いてしまうため、なあなあにせず、積極的に介入していきましょう。
テキストや問題集を閉じてもらう
オンライン授業中に答えを見てカンニングをしてしまう背景には、答えを見れるものが手元に存在することが原因としてあります。
したがって、不要な時以外はテキストや問題集、答えを閉じてもらうことが非常に大切です。「はい、じゃあテキスト閉じてね」といった掛け声を小まめにすれば、生徒も答えを見ることを躊躇するようになります。
スマホで手元を撮影してもらえば一石二鳥
生徒が間違えても許容する姿勢を伝え、テキストを閉じてもらうように声をかけたとしても、なかなか答えを見ることをやめてくれない生徒も存在します。
このような生徒には、「手元の映像の確認」をしてテキストや答えなどを物理的に見れないようにするしか効果的な対策が存在しません。
おすすめなのが、スマートフォンで手元を撮影してもらう方法です。ZOOMと接続したスマートフォンをスタンドなどで固定し、手元の映像を指導者の端末に送り続けてもらえば、生徒の机の上の状態が常に把握できます。
このように、iPhoneを使って手元の映像を確認できるので、カンニング対策だけでなく、生徒が書いている内容を確認するという意味でも効果的です。オンライン授業で積極的に導入したい方法の1つです。
また、カンニングにスマートフォンを使うことも常套手段なので、それを防ぐという点でも効果的です。
カンニングを悪だと決めつけずに授業を進めよう
オンライン授業とカンニングは、切っても切れない関係にあります。オンラインという物理的に離れている状態だからこそ、「カンニングが絶対にできない」という環境を作ることは極めて難しいです。
しかし、指導者がカンニングを悪と決めつけるのは簡単ですが、カンニングなどの不正行為は「実行できる環境」があるからこそ行われやすくなるのもまた事実。
したがって、指導者側がカンニングをできない環境を作り出し、生徒が誤った方向へと進まないようにしてあげることが大切です。記事で紹介した方法を参考にし、効果的なカンニング対策を実施しましょう。